熱帯夜が奪う、ウェルビーイングな夜-科学が示す、夏の睡眠との上手な付き合い方

熱帯夜が奪う、ウェルビーイングな夜-科学が示す、夏の睡眠との上手な付き合い方

お盆が明けても、寝苦しい夜はまだまだ続きます。「エアコンをつけっぱなしにするのは体に悪い気がする」と、暑さを我慢しながら眠ってはいないでしょうか。近年の研究では、熱帯夜による睡眠の質の低下がもたらす健康被害は、熱中症による被害に匹敵することが明らかになっています。今回は「眠りの質」という切り口から、夏の身体的ウェルビーイングについて考えます。

熱帯夜による睡眠障害は、熱中症の被害に匹敵

東京大学大学院新領域創成科学研究科の井原智彦准教授らの研究グループは、岡山大学・関西福祉科学大学・産業技術総合研究所と共同で、名古屋市の住民550名以上を対象に夏季の睡眠の質を調査しました [1][2]。その結果、24.8℃を超えたあたりから睡眠障害を抱える人の割合が約3割から約4割へと増加し、最低気温が25℃を上回る「熱帯夜」になると睡眠の質が悪化し始めることが確認されたということです [2]

さらに、死亡による健康損失と疾病による健康損失を一つの指標で比較できる「障害調整生存年(DALY)」という国際的な尺度を用いて名古屋市の5年間のデータを解析したところ、熱帯夜における睡眠障害による健康被害は、同期間の熱中症による被害とほぼ同等の規模であることが分かりました [1][2]。「夜の暑さ」は、これまで死亡者数や救急搬送者数のような形で統計に表れてこなかったため見過ごされがちでしたが、身体的ウェルビーイングを脅かす要因として、熱中症と同じレベルで向き合う必要がある、というのがこの研究の重要な指摘です。

眠れない夜は、日中の心身のコンディションにも波及

睡眠中に、脳や内臓など体の深部の温度(深部体温)が低下することで、心身が回復に向かいます。手足の皮膚から熱が放散されることで深部体温がスムーズに下がると、寝つきが良くなることが知られています [3]。ところが室温や湿度が高い状態が続くと、この熱放散がうまく進まず、寝つきの悪化や中途覚醒(夜中に目が覚めてしまうこと)が起こりやすくなります [3]

睡眠時間は季節によって変動し、夏季は冬季に比べて10〜40分程度短くなることが分かっています [4]。原因としては、日長時間(日の出から日の入りまでの時間)の延長以外に、上述したような高温・多湿の寝室環境もあると考えられます。つまり、夏の間は寝つきや眠りの持続が他の季節よりも難しい [4] ため、良質な睡眠の確保が難しい時期と言えるのです。

こうした夏の夜の睡眠の乱れは、翌日のだるさや集中力の低下といった形で日中の活動にも影響します。「今日は何となく体が重い」「集中力が続かない」という夏特有の不調の背景には、単なる暑さだけでなく、前夜の眠りの質が関わっている可能性があるのです。身体の回復力を支える睡眠を整えることは、日々を心地よく過ごすための土台づくりであるといえるでしょう。

科学的知見に基づく「夏の睡眠環境」の整え方

厚生労働省が公表する睡眠に関する指針では、寝具や寝衣を着用した状態での寝室の室温は、季節に応じて概ね13〜29℃の範囲に収まるようにし、体に近い寝床の中の温度は33℃前後、湿度は40〜60%程度を目安にすることが推奨されています [4]夏場は室温を我慢して高めに保つよりも、エアコンや除湿機を上手に活用し、この範囲に近づけることが良質な睡眠を支える具体的な方法といえます。

今日から簡単に取り入れられる「夏場における快適な睡眠環境のポイント」[5][6] は以下のとおり。

  • 就寝時もエアコンを適切に使用し、寝室の温度・湿度を保つ。(我慢は逆効果)
  • 除湿機能を活用し、汗による体温調節を妨げない湿度環境を整える。
  • 扇風機の風を体に直接当て続けず、室内の空気を循環させる程度に使う。
  • 寝る1~2時間前までに入浴を済ませる。(温度は38~40℃が適温)
  • 寝る前は照明を落とし、脳と体を睡眠モードへ切り替える時間をつくる。
  • 寝衣は綿やシルクのパジャマを着用。長袖・長ズボンが理想的。

眠りを整えることは、自分や家族を思いやること

「暑くてもエアコンなしで頑張る」ことは、今日では必ずしも健康的な選択とは言えません。特に高齢者のなかにはエアコンをつけることを嫌がる方も少なくありません [6] が、今やエアコンの適切な使用は予防医療と言っても差し支えありません。電気代への不安、エアコンの冷たい風が苦手、扇風機で十分、そもそも暑さを感じにくい等さまざまな理由があります [6] が、周りが「無理やりつけさせる」のではなく、上記のような科学的データを示したうえで、デジタル温度計・湿度計を目につくところに設置したり、よく過ごす部屋だけでも涼しくしてみよう等の提案を繰り返し行うことで、エアコンへの抵抗感を和らげてあげることが必要かもしれません。

科学的なデータは、夜の暑さと上手に付き合うことが熱中症対策と同じくらい重要な健康行動であることを教えてくれます。今年の残暑は、我慢するのではなく「眠りを整える」ことを意識し、環境を整えてみましょう。その小さな選択の積み重ねが、ご自身やご家族みんなの心と体のウェルビーイングにつながっていきます。

参考文献:
[1] Ihara, T., Narumi, D., Fukuda, S., Kondo, H., & Genchi, Y. (2022). Loss of disability-adjusted life years due to sleep disturbance caused by climate change. Sleep and Biological Rhythms. DOI: 10.1007/s41105-022-00419-z(アクセス日:2026年7月15日)
[2]東京大学大学院新領域創成科学研究科 記者発表「熱帯夜による睡眠障害の被害は熱中症に匹敵することが判明」(2022年9月27日).https://www.k.u-tokyo.ac.jp/information/category/press/9748.html(アクセス日:2026年7月15日)
[3]国立精神・神経医療研究センター病院「温度、湿度と睡眠」(2022年6月28日).https://hsp.ncnp.go.jp/column/sleep_detail.php?@uid=BmDg4tAiFefIBAVs(アクセス日:2026年7月15日)
[4]厚生労働省「健康づくりのための睡眠指針2014」/「健康づくりのための睡眠ガイド2023」(2023).https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/suimin/index.html,https://www.mhlw.go.jp/content/001305530.pdf(アクセス日:2026年7月15日)
[5]パナソニック エアーマイスターが教える快眠環境づくりに役立つエアコン活用術(2026年7月14日).https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001223.000024101.html(アクセス日:2026年7月15日)
[6]三菱電機 霧ヶ峰PR事務局「高齢者にエアコンをつけてもらうための 3つの意識改革とコミュニケーション方法」(2022年6月27日).https://cdn.kyodonewsprwire.jp/prwfile/release/M106159/202206273009/_prw_OR1fl_eBKl4duE.pdf(アクセス日:2026年7月15日)

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