2025年、創業20周年を迎えた桜十字グループ。その節目に掲げた新たなビジョンが、「WELL-BEING FRONTIER」です。この考え方をより深く社会へと広げていくため、そしてその実現に向け、2026年1月19日より、放送作家・脚本家の小山薫堂氏が、桜十字グループの「ウェルビーイング・アドバイザー」に就任しました。

長年にわたり、数々のプロジェクトを共にしてきた小山氏と、桜十字グループCMOの那須一欽。全6回にわたる対談シリーズの第1回は、両人の共創の原点であり、桜十字がウェルビーイングを目指すきっかけにもなった「桜十字病院エントランスロビーリニューアル(2018年)」の舞台裏を振り返ります。
病院を再定義した、衝撃の「一文」
那須一欽(以下、那須): 薫堂さん、本日は対談の機会をいただき、ありがとうございます。今回、改めてウェルビーイング・アドバイザーとしてご一緒するにあたり、どうしても振り返りたかったのが2018年にご一緒した最初のプロジェクト、熊本・桜十字病院1階エントランスロビーのリニューアルです。
ご相談から約1ヶ月後、薫堂さんのオフィスで企画書を拝見した日のことは、今でも忘れられません。特に、1ページ目冒頭に書かれていた、あの一文。

「奇しくも、ひとは、身体を悪くしたときに初めて気づくことがあります。」
つまりそれは、「病院は、大切なものに気づける場所。」というメッセージでした。これを見た瞬間、思わず代表と目を見合わせました。毎日、病院で働いている私たちにとって、それは「なんて貴重な場所で仕事をしているんだろう」と。価値観の根底を揺さぶられるような言葉だったんです。ズドーンと、心に響いたことを鮮明に覚えています。
小山薫堂氏(以下、小山):最初に病院をご案内いただいたとき、率直に「病院らしからぬ病院だな」と感じました。一番いい場所に社員食堂があって、ガラス張りの厨房があって、そして特に印象的だったのが、亡くなられた方をお送りする霊安室が、建物の中心という“いちばんいい場所”にあることでした。


(栄養管理部)

従来の病院の常識では考えられない配置ですが、そこには「患者さんやご家族のことを本気で考える」という本質が、きちんと形になっていると感じたんです。そんな印象を抱きながら、あの言葉を綴った記憶があります。
那須:「病院は、大切なものに気づける場所」という言葉は、私たちにとって本当に大きな気づきでした。日々の現場では、どうしても「病気やけがを治す」「治療を行う」という視点に意識が向きがちですが、この一文は、病院の役割を根本から捉え直す、非常に価値のある切り口だったと感じています。
そして、そのコンセプトを伺った直後に、もう一つ提案いただいたのが、絵本『まってる。』でした。
病院のリニューアルで「絵本」という言葉が出てくるとは想像もしていなかったのですが、あのアイデアには、どのような背景があったのでしょうか。
効率化が進む社会で、あえて「待つ価値」をつくる

小山: 『まってる。』は、もともとフランスの絵本で、僕が絵を見て日本語をあてた作品です。2008年頃に制作したのですが、「人は知らず知らずのうちに、何かを待ちながら生きている」ということに気付かされたのがこの時。今はスマートフォンの普及もあって、世の中は「いかに待ち時間をなくすか」という効率重視の社会です。でも、だからこそ、あえて「待つことの価値」をつくりたいと、ずっと考えていました。
そして、桜十字病院を見学したとき、「大切なものに気づける場所である病院こそ、この考え方を表現するのに最適だ」と直感したんです。
患者さまは、誰かが来るのをまってる。
お見舞いの方は、回復や退院をまってる。

”まってる”が多く生まれる病院にカフェやラウンジがあると、ふと、「自分は何を待っているんだろう」と気づいたり、誰かと気持ちが繋がったりする、そんな場所となるのではないか、と。そういった提案が出来ることを大変嬉しく思いました。
SNS時代だからこそ響いた、手紙という「重み」
那須: 医療はどうしても「病気を治す」という身体的な役割に集中しがちですが、薫堂さんの提案で「精神的、社会的にできることがまだまだある」と気づかされました。多くの人が行き交うラウンジ、「明日が楽しみになる本」を集めたライブラリ、人とのつながりが生まれるカフェなど、「まってるラウンジ」にはさまざまな空間が生まれました。その中の一つが「レタールーム」です。これまでに聞いたことのないコンセプトで、正直、驚きました。

小山: こういうと叱られそうですけど、レタールームも僕がずっとやりたかったことの一つだったんです(笑)。当初はホテルで作ることを想定していましたが、「大切なものに気付ける病院にあった方が、むしろ『まってる。』の物語としていいんじゃないか」と思い直しました。
那須: 正直に言うと、当時は「SNS全盛の中、お手紙を書く部屋をどれくらいの人が使ってくれるだろうか」と少し不安があったのも事実です。でも、いざオープンしてみると、お孫さんたちが一生懸命手紙を書き、受け取ったおじいちゃんやおばあちゃんが、その手紙をベッドの周りに大切に貼っていく……。そんな光景があちこちで見られました。しっかり”かたち”として手元に残る有形の温かみ・繋がりを強く感じ「これはやってよかった」と思いました。


口では言えない想いを手紙にして、専用の「まってるポスト」へ入れる。入院する前よりも、退院する時の方がご家族の絆が深まっている。そんな新しい価値を桜十字に与えていただいたと感じています。
小山:メールやLINEに慣れていると、手紙を書く手間や返事を待つ時間は、もどかしく感じるかもしれません。でもだからこそ、相手を想う時間が長くなる。コミュニケーションの本質は「相手のことをどれだけ長く、深く想うか」にあると思うんです。直筆の手紙が、相手を想う強さに繋がっていく。「レタールーム」に込めたメッセージを、桜十字の皆さんが深く読み取って形にしてくださったことが、本当に嬉しかったですね。
▼対談の様子はこちら
Vol.2へ続く
