「生きるを満たす。」その原点にあるもの。|小山薫堂氏×CMO 那須対談 Vol.2

2025年、創業20周年を迎えた桜十字グループ。その節目に掲げた新たなビジョンが、「WELL-BEING FRONTIER」です。この考え方をより深く社会へと広げていくため、2026年1月19日より、放送作家・脚本家の小山薫堂氏が、桜十字グループの「ウェルビーイング・アドバイザー」に就任しました。

長年にわたり、数々のプロジェクトを共にしてきた小山氏と、桜十字グループCMOの那須一欽。全6回にわたる対談シリーズの第2回は、桜十字が掲げてきた言葉「生きるを満たす。」の成り立ちから、20周年に定めたミッションとビジョンまで。「まってるプロジェクト」の先で桜十字病院が気づいたこと、そして小山氏が考える、これからの時代の幸せのかたちを語り合います。


「あなたに役割はありますか?」から見えてきたこと

那須一欽(以下、那須):桜十字病院という名前の由来にはもともと、「日本人が愛する桜の樹の下に、人々が微笑みあいながら集う」という想いが込められています。その象徴が「まってるラウンジ」で、人々が集まって何かに気づき、つながっていく場所になりました。薫堂さんには、桜十字が次に目指すべき道しるべを示していただいたと思っています。

桜十字病院_まってるラウンジ
桜十字病院 まってるラウンジ

「まってるプロジェクト」を通して、私たちは、病院には治療にとどまらない価値があると気づきました。そして、その先にある、私たちが目指すべき新しい社会的な価値とは何だろう、と深く考えるようになったんです。

ちょうどその頃おこなわれた桜十字病院の院内学会内でのある発表が、私たちの考え方に大きな気づきをもたらしました。それは、桜十字病院を退院された方々へ実施していた追跡調査についての発表です。調査内容は「いま、あなたに役割はありますか?」という、とてもシンプルな質問でした。その結果、「役割がある」と答えた方と「ない」と答えた方の間で、なんとADL(日常生活動作能力)に30%の差が確認できたのです。

図.当院退院後の役割の有無調査結果

退院時、1か月後、3か月後の3気におけるBI
Barthel Indexを使用し、ADLの指標とした。

調査対象: 2017.04~2017.09の期間中に退院された方で調査協力が得られた73例(N)(回復期リハビリテーション病棟および地域包括ケア病棟を退院)
平均年齢: 80.38歳

逆説的に捉えると、「退院されていく方に社会的な役割があるとADLが30%良くなる」ことを意味しますよね、というような議論になりました。そうすると、退院するまでに社会的な役割を見つけていただいたり、あるいはそれに付随するサービスを用意したりできれば、退院後の暮らしの場でも、より良いかたちで生活を続けていただける、そんな話にまで広がっていきました。治療だけではなくケアの先にある、つまり「生活を支える」という新しい価値が、ここから出来上がってきました。

原点回帰から生まれた「生きるを満たす。」

小山薫堂氏(以下、小山):なるほど。病院にいる間に、病気を治すだけではなく、その人がその先の人生をどう生きるかまで考えるということですね。

那須:はい。そのあたりから、さまざまな気づきやつながりが生まれ、そして人としての役割も見えてくる。そういった社会的要素が徐々にそろってきて、そのときに原点回帰したのが、WHOの健康に関する定義でした。

健康とは、身体的・精神的・社会的に良好で、すべてが満たされた状態。英語にすると、フィジカル・メンタル・ソーシャルウェルビーイングですね。この3つを満たして初めて、ウェルビーイングな状態、かつ健康な状態と言えるということに気づき、そこでわたしたちの概念として出来上がったのが、現在も使っている「生きるを満たす。」という言葉でした。

その原点はどこにあるかというと、実は、薫堂さんとご一緒させていただいた「まってるプロジェクト」です。 このプロジェクトを起点に、 私たちが目指すべき一つの考え方とビジョンが、すこしずつかたちになっていきました。

小山:「生きるを満たす。」という言葉、僕は素晴らしいコピーだと思います。最初に拝見したときに、いい言葉だなと思いました。しかもそれを病院が提案する。

病院とは一般的に、病気になった人が回復して元の状態に戻ることをミッションとした場所だと思います。でも、今那須さんがおっしゃったように、ただ戻るだけじゃなく、人によって幸せの価値観や基準は違う。それをどう自分のなかに持っていただくかと考えたときに、「満たす」という言葉が非常に言い得て妙だなと思いました。きっと入院中に何かに気づいたり、新しい趣味や人生の目標ができたりするところまでを含めての「退院」ということなんですよね。

桜十字病院_まってるライブラリー
桜十字病院 まってるライブラリー

那須:そうですね。そういった意味では、フィジカル・メンタル・ソーシャル、この全てを満たす。ここ数年でウェルビーイングという言葉はより一層浸透し、それを求める時代になってきました。そして私たちも、医療のその先に、これまで以上にウェルビーイングを考えなければいけないし、それは医療だけで完結するものでもありません。そういう価値観を持って臨まなくていけない時代に入ってきたなと、今では強く感じています。

ウェルビーイングは、一人では完成しない。

那須:そういった時代の中で薫堂さんも、さまざまな幸せやウェルビーイングのあり方を考えたり、文字にしたりしてこられました。その中には、桜十字病院のような医療に関わる場所や予防医療の施設などで具体的なかたちにしていただいていますが、これからの時代、あるいは現代人が考えるべき幸せのあり方について、どうお考えですか?

メディメッセ桜十字
メディメッセ桜十字
桜十字八代リハビリテーション病院
桜十字八代リハビリテーション病院 レターブース

小山:そうですね。僕はいつもまず、これを自分ごととして考えるんです、自分のために何が必要だろう、と。年を重ねた先に、何が自分にとっての幸せなんだろう、とたびたび考えます。

そのときに、先ほど那須さんがおっしゃったことに重なるかもしれませんが、「誰かが自分を必要としてくれる」「人に喜んでもらえる」ということに幸せを感じることが、人間の本能ではないかと思うんです。利他的な思いですね。だんだん年齢を重ねると、手に入れたものよりも、自分が存在していることによって誰かが笑顔になってくれたり、誰かが「ありがとう」と言ってくれるということこそが、幸せなのではないかと。そういう意味ではウェルビーイングというのは、一人だけでは完成し得ず、さまざまなコミュニティや、人と人との関係の中で生まれていくものではないかなと思います。

那須:なるほど。この先の社会的な背景をお話しすると、2035年、2040年になると、日本では約半数がソロ社会になるといわれています。そういった流れの中で私たち桜十字も、社会的な役割やつながり、つまり、ウェルビーイングのなかの「ソーシャル」という要素ですが、私たち医療からすると、どうしても3番目の選択肢になっていました。でも、コミュニティをつくる、人と人をつなげる。そういったことの意義を改めて強く感じていて、それが桜十字にとって大きなテーマになっています。

応援する人と、応援される人。支え合うことで生まれる幸せ。

那須: 実を申しますと、私たちは2023年から、熊本ヴォルターズというプロバスケットボールチームの運営に携わるようになりました。ここで気づかされたことがあります。改めて考えると、スポーツほどウェルビーイングなものはないな、ということですね。

まずフィジカル、そしてメンタル。これはプレーする側だけでなく、実は見る側にとっても同じです。プレーする側にとっては、最近、学校ではなかなか得られにくくなっている経験を、スポーツが補完するような側面もあると思います。 一方で、ヴォルターズを応援してくださるブースターのなかには、ご高齢の方もいらっしゃる。そしてその方は、応援することに非常に生きがいを感じ、とても楽しんでいらっしゃいます。つまり、熱中できるものがあって、どこかに行く目的があり、そのなかに応援の主軸という役割がある。そういうことができるスポーツという事業を持てたことは、私たち自身にとってもすごく良かったと思っています。こういったことが、桜十字の守備範囲にもなってきました。

熊本ヴォルターズ ゲーム会場の様子

小山:それもいいですよね。応援のエールが選手たちを鼓舞し、勝利したときに「自分の応援によって勝利を手に入れた」ようにも感じる。選手のほうは、自分たちが勝つことで「あの人の生きがいをつくる」というような。WinWinというか、支え合っている感じですね。

那須:まさしく。その途中の過程は「Well-doing(ウェルドゥーイング)」かもしれませんが、心が満たされた瞬間には、ウェルビーイングというか、非常に幸せな状態を感じられる。より主観的なウェルビーイングにまで発展していける。私たちも医療だけではなく、広がっていく世界のなかでそれを感じていて、改めてスポーツの世界はすごいなと実感しています。

そういったウェルビーイングな世界として、他に何か思いつくものはありますか?

小山:そうですね、芸術もそういった面があるのかなと思います。たとえば音楽。自分が演奏したものを誰かが聴いてくれて、それによって癒されたと言われたら、自分にとっての幸福につながります。絵もそうですし。芸術と呼ばれるものはみんなそうです。

お茶なんかもそうかもしれません。「おもてなし」ですよね。自分が誰かをおもてなしして、その方がその場で何かの気づきを得た、四季を感じた。どんなことでもいいのですが、それによって達成感を感じる。文化芸術は、とても大切な要素なのではないかと思います。

「人生100年時代の生きるを満たす。」のその先へ

那須:確かにそうですね。そう考えていくと、桜十字が医療だけにとどまらず、いろいろな領域へ広がっていることにもつながってきます。

桜十字も2025年をもって20周年を迎え、新たなミッションとビジョンを策定しました。ミッションは「人生100年時代の生きるを満たす。」。それまで「生きるを満たす。」としていましたが、私たちも社会的なバックグラウンドを築いていくなかで、0歳から100歳まで、すべての人の生きるを満たすことにドメインを広げ、できることは何でもやっていこう、と。

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桜十字が描くWell-beingな状態

そしてビジョンとして「WELL-BEING FRONTIER(ウェルビーイングフロンティア)」。この国をもっとウェルビーイングな世界に変えていきたい、という意味でのウェルビーイングです。実を言うと、私たちはウェルビーイングの開拓者になるべきだと思い、最前線という意味の「フロンティア」を選びました。

医療を軸に、予防医療、高齢者住宅、介護事業、そしてさらにはスポーツであったり、より幅広い人たちにウェルビーイングな世界をどう提供していくか。これまで培ってきたエビデンスや考え方を、さらに広い世界へ還元していきたいと思っています。

▼ 対談の様子はこちら


Vol.3へ続く

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