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失敗した自分にどんな言葉をかけますか?― セルフコンパッションが育む Well-being

仕事で成果を求められる場面が増えた現代。高い目標を持ち、自らを律しながら努力を続ける人も少なくありません。その一方で、私たちは他人には優しくできても、自分自身には厳しい言葉を向けてしまうことがあります。そうした傾向と心の健康との関係に注目が集まる中、近年、セルフコンパッションSelf-Compassion)という考え方への関心が高まっています。

成果を求める人ほど自分に厳しくなる

期待した成果が得られなかったとき。思うような結果が出なかったとき。もっと頑張れたはずだ、なぜできなかったのだろう、と自分を責める言葉が頭に浮かぶことはありませんか。

セルフコンパッションとは、自分が困難や失敗を経験したときに、自分自身へ思いやりを向ける姿勢を指します。セルフコンパッション研究の第一人者であるKristin D.Neff 氏は、この概念を『自分への優しさ(Self-Kindness)・共通の人間性(Common Humanity)・マインドフルネス(Mindfulness)』の3つの要素から説明しています。
Kristin D. Neff・Christopher K. Germer, 2012

図1.セルフコンパッションの3要素
図1.セルフコンパッションの3要素

失敗や苦しみは誰にでも起こりうるものです。その事実を受け止めながら、自分を必要以上に責めるのではなく、思いやりを向けること。それがセルフコンパッションの出発点です。

自己肯定感ではなく、自分との向き合い方

セルフコンパッションは、しばしば自己肯定感と混同されます。しかし両者には大きな違いがあります。
自己肯定感は、自分を肯定的に評価する感覚です。一方でセルフコンパッションは、自分を評価することよりも自分との向き合い方に重きを置きます。成功しているときだけでなく失敗しているときも含めて、自分を一人の人間として受け止める姿勢が特徴です。

図2.自己肯定感とセルフコンパッションの違い
図2.自己肯定感とセルフコンパッションの違い

セルフコンパッションに関する国内レビューでは、セルフコンパッションが抑うつや不安の低減主観的幸福感との関連を持つことが報告されています。また、過度な自己批判を和らげる可能性も示されています。(大宮・富田, 2021

私たちは結果によって自分の価値を測りがちです。しかし、うまくいかない日があることもまた、人として自然な姿なのです。

自分を褒めることは甘やかすことではない

自分に優しくすると成長できなくなるのではないか-そう感じる人もいるかもしれません。
しかし、セルフコンパッションは自己放任や現状維持を意味するものではありません。むしろ、自分を必要以上に責めないことが、次への行動を後押しすると考えられています。

レジリエンス研究に関する国内レビューでは、セルフコンパッションがストレス対処心理的適応レジリエンスと関連することが整理されています。失敗や困難を経験した際、自分を追い込むのではなく、自分を支えることが回復力につながるという考え方です。(水野・菅原・千島, 2017

ここで参考になるのが、セルフコンパッション研究でよく紹介される問いです。

もし親しい友人が同じ状況にいたら、どのような言葉をかけるだろうか

多くの人は、失敗した自分自身に対して「なぜできなかった」「もっと努力できたはずだ」と厳しい言葉を向けてしまうことがあります。しかし、友人に対しては「大丈夫だよ」「よく頑張ったね」「次があるよ」と労いの声をかけることが多いでしょう。セルフコンパッションとは、その優しさを自分自身にも向けることです。

図3.友人には優しいのに、自分には厳しい
図3.友人には優しいのに、自分には厳しい

その実践の入り口として、自分を褒めることは有効かもしれません。大きな成果でなくても、今日はここまで頑張った、難しい状況の中でも前に進んだ、と自分を認めることはできます。

Well-being を支える小さな習慣

ウェルビーイングとは、常に前向きでいることでも完璧な自分を目指すことでもありません。順調な日もあれば、思い通りにいかない日もあります。そのどちらであっても、自分の価値を結果だけで決めないことが長期的な心身の健康につながります。

自分を認めること。
自分をいたわること。
そして、ときには自分を褒めること。

それは、自分らしく歩み続けるための大切な習慣なのかもしれません。

参考文献:
・Neff,K.D.・Germer,C.K.(2012).
A Pilot Study and Randomized Controlled Trial of the Mindful Self-Compassion Program. WILEY vol.69.
・大宮 宗一郎・富田 拓郎(2021).
マインドフル・セルフ・コンパッション(MSC)とは何か:展望と課題. J-STAGE 心理学評論 64巻3号.
・水野 雅之・菅原 大地・千島 雄太(2017).
セルフ・コンパッションおよび自尊感情とウェルビーイングの関連-コーピングを媒介変数として-. J-STAGE 感情心理学研究 24巻3号.
・LeWine,H.E.(2026). The power of self-compassion. Harvard Health Publishing.

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